2010年12月12日日曜日

ボラが教えてくれた――'anae

こんにちは。
みなさまいかがお過ごしですか?

ぼくは、長いながーい原稿を毎日少しづつ執筆しています。最近、何となくコンスタントに浮き沈みなく原稿がどんどん書けるコツのようなものが見えて、原稿生活20年以上の自分ですが、新しい光が見えた気がしているebimaruです。

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ある日、家の近くにあるハワイの海岸のようなとても気持ちのよい場所に、息抜きに出かけてみた。

そのビーチは、大きな砂利がざらざらしている、ちょっとワイルドな海岸だ。波が入ってくる日にはサーファーがちらほらとブレイクする波間に漂う。でも、今日はダンパー気味のつぶれた波で、人は一人もおらず、波だけがどんどん打ち寄せている。いつも、ぼくが散歩している静かな内海の浜とは様相がまったく異なっていて、ほんの数百メートルしか離れていないのに、外海の雄大さがうかがえる、すがすがしいビーチになっている。

ぼくが、数キロにわたって誰もいない浜で、強い風に吹かれて目を細めながら、寝転がって海を眺めていると、海面近くで猛禽が何かを狙う様子が見えた。観察していると、このあたりの海中にたくさん生えている海藻、カジメが繁茂(はんも)している海面に降下して獲物にトライしている。

猛禽は、海面近くをゆったりと風に乗って、行ったり来たりしていたが、それを取るのは難しいらしく、あきらめてどこかへ行ってしまった。空の高所に目をやると猛禽が何羽か転々と滑空する姿があった。

しばらくして、さきほどの場所に目をやると、砂浜で白いカモメが何かをつついている様子が見えた。打ち上げられた魚だろうか。

さらにしばらくして、カモメのあたりに目をやると、カモメはいなくなって、猛禽が獲物にありついていた。最初に海面近くを飛んでいた猛禽だろうか。

ぼくは、何を食べているのか知りたくなって、数十メートル後ろから、気づかれないようにアプローチしようと思い、遠回りして崖を登った。ネイティブアメリカンの技術、フォックスウォークで、観察できるポイントまでゆっくりと歩を進めた。

今日は風が強い。猛禽は少し獲物をついばむと、あたりを警戒して頭を上げる、問題はないと判断すると、また獲物をついばむ……それを繰り返している。

崖に生えているススキや、セイタカアワダチソウが風にあおられて揺れている。ぼくは、フォックスウォークで歩きながら、風に揺られるススキや茂る草たちにリズムを合わせながらゆらゆらと進んだ。

近づいていく中、ある地点で、猛禽がものすごく警戒している様子が見えた。あたりをうかがっていっこうに頭を下ろさない。ぼくは、風になびく草に合わせてゆったりと歩き続けた。その後、気づかれることなく、ポイントまで移動することができたが、獲物はちょうど砂丘に隠れて見ることはできなかった。

しばらく静かに見ていたが、誰か、別の人の気配を察して猛禽は、翼を大きく広げて舞い上がった。

猛禽が帰ってこないので、崖を降りて急いで見に行くと、大きな銀色のボラが打ち上げられていた。

海面を飛んでいた猛禽は、これを狙っていたのかもしれない。打ち上がったボラをカモメが見つけて食べ、猛禽がカモメを追い払い食べていた……。そういうことだろうか。

ボラは命をまっとうして、死んで肉体を残した。その身体を、カモメや猛禽がついばみ、明日を生きる糧にしている。このボラはもう海の中にはいないけど、カモメや猛禽の中に生きているのかもしれないと思った。命のつながりはこうして連鎖になり続いていくのかもしれない。自分が、ふだんやっていることはこうしてつながっていくように、考えて行動しているだろうか。自問自答しながら、また崖を登って帰路についた。

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ボラをハワイ語で'anae(アナエ)と言います。最初のクォーテーションは、ハワイ語で'okina(オキナ)と呼ばれる声門閉鎖音です。詰まるような感じの発音ですね。

古代ハワイでは、ボラを養殖して食べていました。厳しかった階級制度にもかかわらず、どの階級の人たちにも食されていたようです。養魚池(Fish Pond)は、アナエホオマル('Anaeho'omalu)といいます。ホオマル(ho'omalu)は保護する、制限するという意味です。つまり、「ボラを囲い保護する場所」という意味ですね。ちなみにこの'anaeは成魚のボラで稚魚は別の言い方があります。





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