オレンジ色が器の中に広がる。
ほんのりとやさしい里山の香りが立つ。
オレンジ色はまるで枇杷の実の色のようだ。
枇杷茶。
枇杷は古代に日本に持ち込まれたといわれている。そして、日本からイスラエルやブラジルに広まり、現在では品種改良されたものが世界各地で栽培されている。
以前、長崎の島原城に行った時のこと、城下に、かつて島原藩の下級武士が住んでいた、鉄砲町という武家屋敷が連なる場所を歩いた。
屋敷に入ってみると、あまり広くはないが、門構えがあり、飛び石が玄関まで続き、少し大ぶりの深い軒を構えて、土間へと続いている。農家や商家などではなく、小ぶりながら間違いなく武家の屋敷、格である。使わなくなった石臼を縁側の下に石段として用いている。畳の間からそこへ降り、小ぢんまりとした感じのよい庭を眺めた。庭には果樹が何本も植えられている。夏みかんなどの柑橘類に混ざって、そこに枇杷の木も植えられていた。
帰ってから、調べてみると、島原藩は自給用に果樹の栽培を奨励していたとあった。昔のこと、飢饉などにも対応できるように藩が緊急時の対策として講じたものかもしれないし、もしかすると医療用にも使われていたのかもしれない。島原は気候が温暖だが、火山地帯であるため土地がやせていると言われる。昔は、どこの地方でもそうだが、それは大変な苦労があったはずである。
家では、枇杷茶は通年飲むお茶として、毎日のように沸かして飲んでいる。今日も、先ほど散歩したときに近所で剪定(せんてい)してあったものを一袋いただいてきた。水洗いして、笊(ざる)に並べて日に干し、その後、ざく切りにして完成である。ものの本によると、葉の産毛を取り除くとあるが、ぼくは、そのままを全て使わせてもらう。
また、よく歩く山の小道に枇杷の大木が幾重にも重なって道を覆っている場所があり、常緑樹の葉がいつもとても気持ちの良い木陰をつくってくれている。その場所は、夏は日よけ、冬は雨よけになっている。
枇杷茶の効能はいろいろあり、中には癌に効くというのもあるけど、自分的には花粉症や、整腸作用、免疫力向上と、そのやさしい味に惹かれて飲んでいる。
古代から、里山で愛されてきた枇杷。オレンジ色の実の甘さを楽しみ、葉でつくったお茶を喫し、木陰や雨よけを使わせてもらう……。
桃栗三年柿八年枇杷十三年。「桃栗三年柿八年」の後に、こんな言葉が続いているのをご存じだろうか。実が成るのを表しているのはよく知られていると思うが、地方によって異なるらしく、梨や柚子(ゆず)、梅が出てくる地域もある。また、物事を為さんとするときには、相応の時間がかかるというのを表してもいる。
日々、どんどんいろいろなことがスピードアップし、変化を重ねていくが、本当に大切なことは、何も変わってはいないのかもしれないとも思う。そんなことを考えながら、このオレンジ色の枇杷のお茶を飲むと心がほっとする。私たちが目指しているのは、どこで何をすることなのだろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿