いつものように、森を歩いているときのこと、林道の端に黒い小さな毛皮の生きものがうずくまっているのが目に入った。
そっと近づいてみると、すでに死んでいるのが分かった。ヒメヒミズだった。
背中の上部に、少し傷跡があったことから、何らかのアクシデントで傷ついたか、動物に襲われたのだと判断した。
ヒメヒミズに初めて会ったのは、ずいぶん昔だ。地方の古い博物館だった。大昔に造られたギリシャ神殿のような大げさな大理石の建物の中、埃をかぶったガラスケースの標本として、朽ちたような状態のあまりよくない剥製が展示されていた。それでも、こんなに小さな哺乳類が近くにいるんだ、という軽い驚きとともにしばらく標本に見入っていたのを思い出した。
ヒメヒミズの仲間にヒミズがいる。この二種は原始的なモグラの仲間で、森林や落ち葉の下に暮らしている。モグラとは違い、トンネルを自分で掘ることはない。表土の上に降り積もる落ち葉の下にトンネルをつくり、その「道」を行き来している。3、4時間ごとに眠ったり起きたりしているらしい。食べ物は昆虫、クモ、ムカデの他に植物の根や穀類も好んでいる。
ビロードのような毛皮の光沢がとても美しい。家に持ち帰り、じっくりと観察させてもらった後に、もう一度、出会った場所まで行き、お礼を言ってヒメヒミズを埋めた。
ヒミズやヒメヒミズの死体は死後に臭いが強くなるためか、好んで食べる動物がいないと言われている。死んだものがよく、そのままの姿で山にころがっているそうだ。
でも、彼(彼女?)はきっと、土の下で、虫や菌類にしっかり分解されて、早くに土に還り山の一部に戻っていくことだろうと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿