2013年4月15日月曜日

春の鉄瓶 LIVELY SPRING


すっかり春だ。
木々の芽は萌え、水はぬるんでいる。
小さな虫たちが羽化し、水際を飛び始めた。
それを追うように、夕方になるとどこからか蝙蝠の黒い小さな翼がひらひらと舞い上がる。
周りに渓や田んぼが多いうちの方では、少し前から蛙も鳴きはじめた。

春の訪れはうれしい。

すべての生きものが生を謳歌するさまが、心地よいカンタータや神楽の響きのように共鳴している。
 
豊かな森と大地に暮らした、私たちの先祖は、きっと昔、あたたかな日差しの春を迎えて、こう言ったことだろう。

新たな季節が巡ってきた。今回も自分たちは、厳しい冬を乗り越えることができ、新しい芽吹きの季節を、喜びとともに迎えることができた。さあ、ふたたび歩み始めよう……。
 
寒い冬の時期、うちでは達磨ストーブが欠かせない。上には鉄瓶がちょこんと載っている。

もちろん、いつでもしゅんしゅんと白い水蒸気を口から噴き出して、乾燥した部屋にうるおいをもたらしてくれている。

この古い鉄瓶は、ストーブと同時に以前、手に入れたものだ。おそらく、戦前のものだと思われる、枯れた鉄地が何ともいえずあたたかみがある。鉄ではあるが、有機的なぬくもりすら感じさせる。

蓋には松の実の意匠をあしらったつまみが取っ手になっていて、片方の側には竹林、もう片方には梅の図があしらってある。そう松竹梅だ。吉祥をあらわすとされる、縁起の良い図柄だ。

茶道をやっている友人に、古い鉄瓶を手に入れた、と話したら、野点(のだて)で使うものではないか? と言われたことがある。そうか、囲炉裏や火鉢、達磨ストーブが定位置かと思っていたけど、野点なんて、すばらしい使い方があったんだ。

こんど、この鉄瓶をリュックに入れて原っぱに持っていこう。少し重いけど、きっと美味しいお茶を淹れられるにちがいない。

野草のお茶。スギナ、オオバコ、タンポポ、オニタビラコ……。カタバミはまだ早いか。ノビルはお茶にはあんまりかな。

だけど、まだまだたくさんある。春の野草でどんなお茶ができるかな。