西欧式の挨拶を一通り済ませると、HONDAの赤い三輪バイクの後ろに乗れと言う。これからの道中が分かっているので、ちょっと不安だったが、バイクの後ろに乗せてもらうことにした。
ぼくは、ハワイイやポリネシア、太平洋での島々ではとても重要な食物である、タロ芋が、畑で実際にどのように栽培されているのか知りたかった。4月に、この島を訪れた時に知り合った人に、タロ芋畑を持っているレネを紹介してもらった。
ぼくらを乗せたバイクは、25%の急勾配へ向けて勢いよく走り出した。道は、土ではなく岩盤をそのまま道路として使い、ところどころアスファルトで舗装されている程度だ。
レネはぼくらに、少しだけ顔をこちらに向け、ワイピオの道案内をしながら、バイクを運転した。
「このバイクはよく走るわ」。
「あそこに見える滝があるでしょ。あれはヒイラベという名前。この島では一番大きな滝なの。本当は二筋の流れがあるんだけど、最近では、もう一つは大雨が降らないとできないわ」。
「こっちに行くと、海よ。ブラックサンドビーチの海岸」。
「これは、ジンジャーの花。いい香りなのよ」。そう言って、バイクを止めると、赤い花を摘んで渡してくれた。
道はところどころ、川を幾筋もバイクで渡河して渡る。渡るときは、足が濡れないように、レネも含めて全員が足を上にあげるのが可笑しい。ノークラのバイクだからできることだ。
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川に沿って作られた、レネのタロ芋畑は2つ。川の手前と奥だ。どちらも50メートルプールほどの大きさがある。畑の周りには芝生の道が畔としてあって、そこにはヤシの木やブーゲンビリヤが生えている。田んぼのうち、一枚は使っていない。川に近いほうの水田でぼくらは作業をすることになった。
「この畑、この場所、見える景色、ここは今日はぜーんぶあなたたちのもの。思いっきり楽しんでちょうだい」。そう言うとレネはバイクにふたたびまたがり、笑顔で手を振って帰って行った。小さい頃は、レネの祖母がこの畑をやっていたが、若いころにレネはオアフ島のワイキキに出て行ったと言う。数年前に故郷であるワイピオに戻って来たのだそうだ。
レネはバイクにまたがると、ふたたび元来た道を引き返して、爆音を上げ去って行った。途中で、こちらを振り返り何度も手を振ってくれた。
50メートルプールくらいの水田が2枚。このうちの一枚の田んぼにタロ芋が植わっている。もう一枚はお休みしているようだ。レネに聞かなかったが、畑のように連作障害があるのかもしれないと思った。
タロ畑は、日本の稲の水田とは違って、特に規則性はなく、密集しているところもあれば、まばらに植わっている個所もある。
このタロ芋に、近年持ち込まれた外来種がつくようになり、害虫となっている。でっかいタニシのような姿をしたゴールデン・アップル・スネールだ。これが、タロ芋をどんどん食べつつ、乾燥してピンク色をした小粒のイクラのような卵の房を生み繁殖し続けている。
これを集めて、田んぼの畦の芝生にあけるようにレネに言われた。水生の巻き貝だからそれで死ぬのだろう。そして、あとはクレソンのような水生の水草が繁茂しているので、それも取ると……。
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この巻貝は元々、南米原産で、最初はハワイイ料理のオードブルとして、ププ(pupu)という料理に最近使われていたものが、逃げ出してタロ芋畑にやってきたものらしい。
タロの茎や葉に産みつけてあるピンクの卵塊を指で取り去る。水中に転がっている巻貝をバケツに放りこむ。そして、クレソンみたいな雑草を集めて取り去る……。これを繰り返して、どんどん進んでいく。
BGMのように川のせせらぎがずっと聞こえている。
ヤシの葉を揺らす風がときどき吹き渡るのが心地いい。
数時間、作業に集中しているとあっという間にお昼になった。途中で、ホースライドや馬車、車の観光客が通りかかり、ぼくらが水田で作業している姿を遠くから熱心に眺めた。恐らく、本物のタロファーマーだと思っているのだろう。ときどき、ぼくは彼らに向かって手を振った。レネから、「観光客には手を振ってあげて」と言われていたのだ。サービス、サービス。
レネは、ぼくらにタッパーに入れたランチを用意していてくれた。中身は、主食のポイ。これは、ポリネシアや南太平洋の人々が主食にしている食べ物だ。タロ芋をすりつぶして作る。ほんのり薄い紫色をしている。そして、伝統的ハワイイ料理というか、ポリネシア料理のラウラウ。これは、豚肉や鶏肉、魚などをタロイモの葉で包み、さらにティの葉で包んで蒸したもの。ティの葉は食べない。それから、固めに炊いた白いご飯、枝豆の山、そして大きなパパイヤだ。
芝生にシートを広げて、タロ畑やワイピオの奥深い山々にかかる雲を眺めながら、ランチを楽しんだ。ヤシの木が芝生の上に大きな葉影を作り出している。
*タロ芋畑。
*休耕田(?)から見るワイピオの東側。なんだか、ワクワクする場所でしょ?
*作業の様子。
*次回は、タロ芋と南太平洋の関係や、画期的なスネール駆除法にふれます
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