2010年7月3日土曜日

1800万年前の足跡が教えてくれたこと

  ネイティブ・アメリカンの古老から伝わる技術を学んでいるせいもあって、ぼくは、普段の暮らしでも、周囲の状況や環境の変化を観察することにとても興味がある。シャーロック・ホームズのような、と言えば、わかりやすいかもしれない。足跡や煙草の吸い殻などから、その人の性格や感情を読み取ろうとする。そのことは、ネイティブ・アメリカンの技術の一端に過ぎないけど、狩猟をする際にはとても重要な技術なのだ。

 そうしたこともあって、ときどき山に入っては、動物の足跡を追跡したり、鳥の声を聞いたり、植物や気象の状態から山全体の様子をうかがってみたりしている。

 先日も、水戸の山中でイノシシの痕跡を追った。山深いハワイ島の山中でも、イノシシをトラッキング(足跡を追跡すること)したことがあった。そのときは、痕跡が新しいこともあって、爪の形や、イノシシが食べ物を探して、鼻を地面の中に突っ込みながら進む様子が、まるで数分ほど前に起こった出来事のように思えたものだ。

 話はさかのぼるが、それよりも少し前に、岐阜県で1800万年前の動物の足跡化石が大量に見つかったという報道があり、新幹線に乗った。現場は川の合流地点だ。ここは、太古も川だった場所で、山の際から少しなだらかな場所を経て、山から川が流れこんでいる、野生動物たちにとっては、おそらく格好の水場だったに違いない場所だ。

 そこには、なだらかな場所から川の流れに向かって、大小のさまざまな大きさの足跡が続いていた。水辺に葦が生えていた痕や、葦が倒伏した痕もはっきりと化石になって残っている。かつての河床であったろう場所には環虫類(ゴカイなど)の痕跡も見ることができた。

 最初にその場所を見たときには、河床一面にへこみが沢山ついていて、きっとあれが足跡なのだろうな、という感じだった。しかし、ネイティブ・アメリカンの技術で、視野を広くとり、俯瞰的にその場所をとらえて、よく見てみると、まるで3Dメガネをかけて、映像が浮かび上がるかのように、その場所の状況が見えてきた。

 足跡の大きなものは、直径が40~50センチメートルはある。ゆったりとして、歩幅も大きく、堂々とした足どりを見て取ることができる。これは、おそらくゾウ、あるいはサイである可能性もある。それよりもずっと小さく華奢で、歩幅も狭く、繊細な足どりの有蹄類(シカ、イノシシ、カモシカなど)の足跡もあり、本当にいろいろな種類、サイズの足跡を見ることができる。

 あまりにも古すぎて、足跡のエッジもぼんやりとしており、動物たちのプレッシャー・リリース(足跡から感情や状況を読み取る)を読み取ることはできなかったが、動物たちがこの先にある水場に向かう気持ちは、くみ取ることができるようだった。

 どの足跡を見ても一定方向へ続いている。山から出てきて、水を飲み、山に帰る――それを繰り返す。そして、足跡は見つけられないけど、水場で獲物を狙う剣歯虎などの肉食獣も潜んでいたはずだ。もしかしたら、この場所では先祖が狩りをしたかもしれない。1800万年前は縄文期にあたる。ゾウやサイ、シカ、イノシシ、剣歯虎、そして縄文人の狩り。そこには、川で水を飲み、山で暮らし、毎日の生活リズムの中で命のやりとりを繰り返す、自然と深くつながって生きる者の姿が見える気がした。

 この、かつての豊かな水場は、現代では灰色のコンクリートで護岸工事がしてあり、人家や畑がちらほらと見えているにもかかわらず、風が吹き渡り、陽当たりがよく、空気が澄んでいて、とても気持ちのよい場所だった。この感覚は、きっと1800万年前から変わらないのではないかと思えた。1800万年前は、遙かに遠いのかもしれないけど、この動物たちの足跡がぼくに教えてくれたことは、とても大切な事のような気がした。



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このニュースのトピックス:歴史・考古学

・ほ乳類の足跡化石ズラリ 岐阜・可児市で650個
発見された足跡化石(手前)と、石こうの型を使って説明する岐阜聖徳学園大の鹿野勘次非常勤講師(右)=11日午後、岐阜県可児市 岐阜県可児市の可児川河床にある約1800万年前(新第三紀中新世)の泥岩層から大型哺乳(ほにゅう)類の足跡化石約650個が見つかり、報道関係者に11日、公開された。当時の環境や生態の解明に貴重な資料となりそうだ。16日に一般公開される。
 足跡化石はサイ類やシカ類、ゾウ類のものとみられる。調査した岐阜聖徳学園大の鹿野勘次非常勤講師(62)は「この時代の足跡化石としては全国最多。川の近くの沼地を群れで歩いた跡だろう」と説明している。
 化石は約300平方メートルの範囲に集中。同じ個体の足跡が等間隔に並び、移動の様子が観察しやすい化石もあるという。大型哺乳類以外にも、鳥類の足跡や植物化石、小さな生物がはって移動した跡が見つかった。9月に富山県で開かれる日本地質学会で発表予定。



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